鏡餅を前にして大黒天が胡坐し、周囲に多様な鼠を描く。黒袈裟を被着した鼠は四匹おり、うち二匹は静謐に坐し、一匹は気が散っているようである。また右端の鼠は「……猫頭打」と書いた卒塔婆を抱える。その一方で、晴れやかな被服を纏う鼠たちは酒宴の準備に忙しい。画面左半には寿老や弁財天など福神が奏楽する中、鍾馗は厳しい面持ちを崩さず、画面外を睥睨する。
掲出は正月を寿ぐ一幅でありながら、その画面は禅学的な寓意を内包し、賛文で忠孝を説いており、訓戒的性格をも看取させる。やはり需要があったとみえて類品が複数伝世しており、『白隠』(鈴木大拙、田中一松監修)、『白隠禅画墨蹟』(花園大学国際禅学研究所)に所載を確認できる。本品に同じく、一様に款記を持たない。