正倉院に残る勅封の錠は、古製の錠として錠の文化史に照らしてよく知られている。
掲出は「この類の海老錠ではないか」として出品された。正倉院には例の勅封錠のほかに同趣の櫃の錠が少なからず伝えられている。いずれも実見の機会を得ないが、法隆寺や東大寺にも同類が伝存するという。更にこれらよりも古い七世紀に比定される野中寺での発掘報告もある。また、鍵の本にも民間の数例が報告される。民間に伝来した数例の作期に専門家は言及しない。このような状況において、具体的な年代設定はさておき、掲出が最初期の錠の様式を伝えていることは疑われぬところであり、そこに価値を見いだしたい。また、掲出が奈良で採取されたことを追記する。鍵は後補。