鉢金は三十二枚張とし、三十間の覆輪を充てる。前正中に三筋の篠を垂れ、四天鋲を打ち、響孔を穿ち、笠印付鐶を設け、金工六段の八幡座を天辺に戴く。典型的な室町期の阿古陀鉢ながら、眉庇と腰巻板に当世形への改変をみる。鉢部の黒漆は黒褐色を呈す。鉢の黒漆には亀裂、眉庇には浮きを確認する。南北朝に初発をみる阿古陀鉢は、火縄銃の出現によって、当世兜に主役を譲るが、掲出のように当世形に改変されながら現場した阿古陀鉢は少なくない。響孔に挿した組紐が、中世の組紐に特有の絹の光沢を今に伝える。それは茶の好寄者が、ぼろぼろになった古箱紐を大事にする所作とどこか似ているように思われる。