魚を画題とするものは古来から存在するが、それは魚そのものが主題であって「水中」「水上」の区別はほぼ意識されない。『動植綵絵』(伊藤若冲画)もその典型例で、図式化された波紋を記号の如く置くのみで、水が与える影響を無視しているようである。或いは、絵の魅力を引き出す上で必要がないと判断しているのかもしれない。
勿論、先述がすべてに符合するわけではない。掲出の鯉図は江戸中期ないし後期に描かれた作品だが、水中か否かで明確な描き分けをみることができる。これは中世の水墨画からの伝統を踏襲した描写とも云えるだろう。瀧を登る鯉(左下写真)については鯉そのものの生命力、力強さに焦点を合わせており、他三枚の静的な鯉との対比が映える。
【参考:『歌川国芳 21世紀の絵画力』(2017、府中美術館)】
月岡雪斎(生年未詳~天保十・1839)は大阪の浮世絵師。雪鼎の長男。父と吉村周山に学び、安永七年には法橋、のち法眼に叙される。肉筆美人画に手腕を発揮したが人物画や花鳥画も得意とした。