若冲には鶏を飼って素描したという伝承もあり、鶏画の多作が知られる。また若冲の鶏画については、「画家・若冲の出発の契機が鶏であったことが、ここにはしなくも提示されているだろう。中国絵画の下僕としての画家ではないという主張がここにあり、狩野派や土佐派とも一線を画す画家に自分を位置づけていることに気づかねばならない」(前掲書『伊藤若冲展』2019)という専門家の指摘もある。
鶏を飼い始めた知人の感想を思い出した。「鶏の動きを見ていると飽きることがない。今更だが、若冲は仕草や表情、感情だけでなく感情を描いているようだ」。
掲出に戻ろう。「左脚で大地を掴んで右脚を挙げ、中空に視線を投げ、嘴を拡げ、声帯を震わせている。ここでは、通例の「竹に鶏図」ではなく、「鶏鵠図」と題した。掲出では竹が添えられており、夜明け前の一番鶏のそれではない。同系の雄鶏の図形は、着彩画「旭日雄鶏圖」(Price Collection)をはじめ、数例を簡単に見出すことができる。その定形化に、一言居士でもあったろう若冲自身を感じる。